亜急性・慢性損傷・神経不調に対する固定学

新鮮な損傷に対しては、その臨床治療の前提マニュアルとなる基礎理論の中に、固定学が存在している。これと同じように、負傷の瞬間を特定できない亜急性・慢性・神経不調に対しても、前述の固定学が必要である。

臨床治療の現場では長いこと現代医学万能、化学薬品万能といった先入観が植え付けられ、同時に亜急性・慢性損傷・神経不調に対してもミクロ的に追及し過ぎるあまり、治療の基本である「固定」が甘くなってしまったのである。また、固定が甘くなるもうひとつの理由として、これらの損傷は緊急性・危険性そして治療効果のリスクが少ないという考えからの怠慢である。

更に、これらの損傷に対しては「面倒な固定をしない。したくない。」という意識が術者と患者の両者に共通するからであり、亜急性・慢性損傷・神経不調に対しては固定をしなくても問題ない、固定はしないものだという誤った先入観が存在しているからである。


固定力の定義

亜急性・慢性の神経不調などの過労性の損傷を治癒に導く90%の働きが固定にある。従って、治療は90%の固定力をもって行わなければならない。


固定量の定義

適量の固定とは、患部に繰り返される負担度(破壊力)より安静度(治癒力)が上回る固定量を言う。


固定期間の定義

一定期間の固定は、患部の環境学的条件を整え、自然治癒力を発揮させることにより、何人も必ず快方に向かうという原則に従わなければならない。


固定による自然治癒力の定義

亜急性・慢性の疾患や神経不調などの過労性の損傷であっても、固定によって起こる「過剰仮骨の吸収と付加骨の添加」という、自然治癒力の原則に従わなければならない。


固定優先の定義

固定により筋力が落ちる心配より、固定にて治癒に導くことを優先させなければならない。


固定学の定義

ケガや事故などによる新鮮な損傷と、負傷の瞬間を特定できない過労性の損傷(亜急性・慢性・神経不調)との関係は、細胞損傷の事実とその程度は同じであり、従って固定も同等にするか、それ以上にしなければならない。

治療の3原則と固定学


治療の3原則と固定学


固定学は1の環境医学の中に含まれる。患部の環境条件を回復させる処置として、負担度(破壊力)より安静度(治癒力)が上回る固定を施し、自然治癒力を発揮させる。


5次元構造 環境医学

患部に対する環境とは
肉体的:固定学、栄養学、薬学、安静学、etc…
精神的:音楽的療法、安らぎ、癒し、気功、etc…


神経不調に固定が必要な理由

偏平足と首にかかる負担 ここでいう神経不調とは主に自律神経失調症状を指しているが、坐骨神経痛症状を始めほとんどの神経症状の根本療法として固定が必要なのである。自律神経失調症状と頚椎損傷の因果関係について説明する。
まず、足裏にその共通点を見つけることができる。足裏の異常である外反母趾や指上げ足(浮き指)・扁平足・ハイアーチ・外反足・内反足のある人は、無意識のうちに指上げ歩き(足指が地面に接地しないで指が浮いた状態での歩行)をし、足裏が不安定になる。足裏が不安定になると、次の3つのストレスが発生する。

第1に、足裏が不安定になると、前述「足と健康との関係」の中で「積木の1段目の原理」で説明したように、その最上部にあたる頚椎1番目(頭蓋骨と頚椎との接続部)が足裏の不安定を補おうとして歪みが起る。
第2に、その歪んだところに「地面の縦揺れ・横揺れの原理」で説明したように、歩行時に介達外力となる過剰な衝撃波とねじれ波が発生し、これを頚椎1番に伝えてしまう。
第3に、運動能力や歩行能力の衰えと共に「竹馬の原理」で説明したように、日常生活やスポーツなどの環境条件の中で、介達外力が反復性となって頚椎1番へ繰り返し伝えてしまう。


積み木の原理


では、なぜ首が足裏の不安定を補い易いのか。

1.積木の原理で説明したように、積木の一段目が傾くとその最上部は反対側に傾き、崩れないようするということに加え、
2.首は360度回転できる関節なので、足裏の不安定に対し容易に対応できるという構造がある。
3.更に、目からの情報により、重力とのバランスをコントロールし易いという特徴がある。

このようなメカニズムで、足裏の異常つまり不安定があると頚椎の1番とその上部にあたる頭蓋骨との接続部を圧迫し続け、次第に変形や破壊、微細な疲労骨折を起してしまうのである。変形や破壊、微細な疲労骨折が起ると、主に頚椎の1番目周辺から液状のカルシウムが流れ出てX線やMRIなどの画像診断では見つけられない、または写らない軟骨の肥厚や骨棘が起ってくる。石灰化が進むと、医学的には「後従靭帯硬化症」と呼ばれる症状になる。また疲労骨折を起した場合は、中からは脳室やクモ膜化腔を満たしている骨髄液が流れ出し、髄液の絶対量が減少するため自律神経失調状態である、頭痛・肩凝り・めまい・吐き気・著しい疲労感などが出る。医学的には、これを「低髄液圧症候群」と呼んでいる。この髄液の漏れは、スポーツや軽微な外傷でも起こってくるが多くの場合、歩行時における足裏からの「過剰な衝撃波」なのである。また、軽微な外傷でも起るとされているがこれは既に90%の過労性の損傷が蓄積されていて残りの10%が軽微な外傷となっているのである。

頚椎と頭蓋骨の接続部には自律神経が集中し、交感神経や副交換神経がカルシウム液や髄液で圧迫され易くなる。圧迫された神経は、伝達不良に陥り各器官や臓器の中立を保つ働き、または効率的に健康を保つ為のホルモン伝達物質の偏りが起ってしまうのである。健康な状態を車で例えると、ギアがニュートラル(中立)の状態を指し、人間では首の安定によりホルモンのバランスが正常に保たれ、それぞれの状況に対応してギアが後進(機能低下)に入ったり、前進(機能亢進)に入ったりして身体を安全に、そして健康に導くようになっている。このギアが壊れ、その結果、ニュートラル(中立)を保てず、前進かバックのどちらかに片寄ってしまう為、その先にある器官や臓器が機能低下したり、逆に機能亢進になり病気が起っているのである。その代表的なのが自律神経失調症状なのである。

自律神経失調症状としては、首の疲労感やだるさから始まり、肩凝り・頭痛・めまい・メニエル・吐き気・不眠・高血圧・低血圧・躁鬱病・パニック症・著しい疲労感・男女の更年期障害・EDなどであり、中には喉に何か詰まっているような感じがあると訴える人もいる。病気としては、糖尿病や腎機能低下・肝機能低下・甲状腺機能の低下や亢進・不整脈・胃腸障害(便秘や下痢の偏り)などの大きな要因になっている。
このように、「足裏の異常と病気との関係」を極端な考え、飛躍的な考えと思いがちであるが、ただ研究や統計的裏付けを取った人がいない為、報告されておらず認識が不足しているだけである。負傷の瞬間を特定できない亜急性や慢性・神経不調の人たちの足に、外反母趾や指上げ足などの異常を90%の割合で見つけることができる。


対処法としては

第1に整体やカイロに加え、足裏のバランスをテーピングで整え、頚椎を安定させる。
第2に、血行の改善の他、靴の中には人工筋肉素材の免震インソールを入れ、「過剰な衝撃波とねじれ波」の吸収無害化を図る。第3に、最も重要な対処法として、頚椎コルセットを用いて固定を図る。頚椎への損傷度(破壊力)より安静度(治癒力)が上回る為の固定を施すことにより、過剰仮骨の吸収と付加骨の添加という自然治癒力の原則に従う。固定は症状によってその判断をするが、固定が最も有効的な手段であることは、固定学で説明した通りであり、これが自律神経失調症に固定が必要な理由である。